◎ベルツ日本文化論集
エルヴィン・ベルツ著/若林操子 編訳/山口静一・及川茂・池上純一・池上弘子 訳/東海大学出版会/2001年/¥7,000+税
価格:7,560円 |
分厚い本です。こんなに分厚いとは思っていませんでした。
明治9年(1876年)にお雇い教師としてドイツより来日した医師エルウィン・ベルツは、当時「日本には痛風がない」と述べたそうです。それはベルツの著書のどこかに記されているはずです。
『ベルツの日記』にその記述がなかったのは【痛風の本】『ベルツの日記』のページでお伝えしましたが、次を当たろうと手に取ったのが、この『ベルツ日本文化論集』です。
結論…「痛風がない」の記述、見つけていません。いや、あるかもしれません。全部読んでないので…その分厚さに読む気を無くしてしまいました。すみません…
ベルツは「日本近代医学の父」と言われるように、日本では医学者としての非常に大きな功績が知られています。一方ベルツは来日以降、日本各地を始めアジア諸国をまわり、民族、文化、風俗、風習を調査し、人類学・民族学の論文や講演の記録を数多く残しています。残念ながらそれらは長らく散逸していましたが、その埋もれた業績に光を当てて、ここにまとめたのが『ベルツ日本文化論集』なのです。ベルツの冷静で偏見のない目から見た日本、ならびに東洋諸国の文化や風習などを、そのまま文章に残した貴重な論文集です。
…つまり、医学分野がメインの著作ではないので、前もって予想しておきべきでした。痛風の記述は無いだろう、と。それでも目次を見てみると「痛風」の項目は…ありました!「第四部 病と近代ー医師ベルツ」の「痛風の二つのケースと草津温泉での治療に関する覚え書き」です。早速読んでみます。
内容はベルツの友人であるイギリス人Gと、ベルツ自身の痛風の治療を草津温泉で行い、確かな効果があった、というものでした。ベルツも痛風持ちだったようです。残念ながらそこには日本人の痛風については書かれていませんでした…
この本にはありがたいことに索引が付いていて、痛風の項目もちゃんとあります。それによっても「日本には痛風がない」の記述は見つけられませんでした。残念。
分厚い本ですが、ぱらぱらとかいつまんで読んでみると、やはり面白いです。内容もさることながら、文章がうまくて読ませます。日本に対して浅い観察、偏見に基づく論文への反論などもありますが、もうけちょんけちょんです。かなり感情的になっているようで、ベルツの別の一面を見た気がします。
他の選りすぐられた論文、講演記録も読み応え十分で、中でも「大学在職二十五周年祝賀会における挨拶」は必読ではないでしょうか。これは『ベルツの日記』に一部が、『エルヴィン・フォン・ベルツー日本に於けるドイツ人医師の生涯と業績』(フェリックス・ショットレンダー著/石橋長英 訳/大空社/1995年)に全文が載っているそうです。
「日本への遺言」とも言われるこの講演で、ベルツは教員生活の充実、医学の発展への喜びを語り、その一方で日本に対しての「苦言」を呈します。それは、学問とはよそへ運んで動かす機械のようなものではなく、ひとつの有機体であり、花を咲かせるためには一定の気候、風土を必要とする、というものでした。つまり日本は学問の果実のみを欲し、土壌を育ててはいない、ということです。土壌とは「精神」のことです。それは「哲学」と置き換えていいものです。ベルツはやがて日本からいなくなる外国人教師たちと今からでも深く交流し、その精神を吸収せよ、と述べます。その精神を知るのは容易ではありません。一生涯かかるかもしれません。が、きっと後悔することはないだろう、と。
ひとつひとつの言葉が身にしみるベルツの著作ですが、ここにも「日本に痛風はない」は発見できませんでした。巻末の索引を当たっただけで、全てに目を通したわけではないので「ない」とは断言できないのですが…一体どこにあるのか、ご存知の方いらっしゃいませんか?