最新の医学知識を伝える「MEDLEYニュース」に「痛風になっても尿酸値を下げる薬は要らない?米国内科学会が推奨」という、なかなか驚きの記事がありました。
アメリカで痛風の新しい治療ガイドラインがつくられ、その根拠となる医療品質研究調査機構(AHRQ)による調査結果が、いろいろと私の中の常識を壊してくれます。
以下にMEDLEYニュースから引用させていただきます。けっこうギョッとします。
痛風と診断された人が食事のプリン体、タンパク質、アルコールを減らしたり、体重を減らしたりすることで症状が改善すると言える十分な証拠はない。
いやいやちょっと…プリン体はすでに影響が少ないと聞いていますが、尿酸値を下げる基本中の基本と思っていた肥満の解消や節酒など生活習慣の改善には「証拠がない」とおっしゃいますか!?「痛風の原因ー尿酸が増える理由:補足」で肥満、飲酒などの影響をまとめてみたつもりですが、これに「十分な証拠がない」と?
さらに尿酸値を下げる薬については、こうです。
痛風と診断された人が尿酸値を下げる薬を使っても、6か月以内の痛風発作は予防できない。
6ヶ月以内は何をやっても再発する人は再発すると。じゃあ薬飲んでもムダなのかというと、
尿酸値を下げる薬の開始から1年後以降に、痛風発作の再発が減少する。
1年飲み続けていれば効果アリということです。「尿酸値を下げる薬は要らない」とまでは言い切っていません。
ただ、
年に2回未満しか発作がない人に対して12か月以上の尿酸低下薬の効果を試した研究はない。
ゆえに、
ほとんどの場合、はじめての痛風発作または発作の頻度が少ない患者は長期間の尿酸低下薬を開始しない。
と、軽度の痛風に対しては、尿酸値を下げる薬を使わないことを推奨しています。頻発するような重症の痛風にしか薬は使わなくてよい、ということのようです。
もともと日本と欧米の痛風治療の方針は同じではなく、たとえば尿酸値は高いけど、痛風発作がおきていない状態=無症候性高尿酸血症である場合、日本では尿酸値が9.0mg/dLをこえると薬物治療を行うのが標準ですが、欧米ではそれを行いません。
日本のように痛風や痛風結節、腎障害がおきる前に予防する方針と、不必要に薬を使わないようにする方針と、どちらがいいと一概にはいえません。ただ、欧米に比べて日本の方が、重い痛風患者は少ないという意見はあるそうです。
あと、上にあるように、
赤肉・果糖・アルコールを控えるなど、特に痛風予防を狙った食事のアドバイスが症状を減らすという十分な証拠はない。
という部分、つまり「生活習慣の改善が尿酸値を下げるという証拠はない」とする部分に少し疑問を感じます。
アメリカでは2004年、2007年、2008年にそれぞれ長期間に及ぶ痛風発症に関する調査を行っていて、肉類を多く食べる人、アルコール摂取量が多い人、砂糖入りソフトドリンクや果糖を多くとる人に、痛風の発症リスクが高いという結果が出ているはずです。それを「証拠」と言わないということは…そんなの誤差にすぎない、ということでしょうか?
経験的には大昔から過食、大酒で肥満傾向の人が痛風にかかっています。日本でも戦後、国民の食生活が欧米化して栄養状態がよくなってから爆発的に増えたわけで、統計的にみて肥満の解消に効果はあるような気がします。科学的にすべてを証明できないから「証拠はない」ということなら、素人の私としては何も言えませんが。
「痛風が頻発する場合は別だが、そうでなければ何をしたところで変わらない、証拠は得られてないから」と言われると、じゃあ薬も飲まなくていいし、食事も今までどおりでいいや、と気が楽になるような、イヤイヤほったらかしでいい訳ないだろう、と不安になるような、モヤモヤした気分になります。日本で痛風を研究されておられる方々は、このアメリカの新しいガイドラインに対してどんな見解を持たれるのでしょうか?
でも肥満が痛風と関係なかったとしても、糖尿病など他の生活習慣病とは関わりがあるので、ほったらかしはダメです。何にせよ日ごろから生活習慣に気を配ることは必要なようです。
【参考】
『高尿酸血症・痛風の治療ガイドライン(第2版)』(日本痛風・核酸代謝学会ガイドライン改訂委員会 編集/メディカルレビュー社/2010年)
『最新醫學別冊 診断と治療のABC 105 高尿酸血症・痛風』(寺井千尋 企画/最新医学社/2015年)