痛風関係のサイトや本を読むと、時々「ティラノサウルス」や「ミイラ」の文字を見かけます。発掘、調査したら、それらに痛風の原因である尿酸塩の痕跡や尿酸塩の腎臓結石が認められた、といった内容です。元々尿酸を見つけようと思って調べたのかどうかはわかりませんが、雑学的にちょっと面白いです。
ティラノサウルスと尿酸塩沈着症
痛風は高タンパク高カロリーの食生活を続けるとかかりやすくなるということは、紀元前5世紀にはすでに知られていて、医学の父・ヒポクラテスによって記録されています。それはヒトにとってははるか昔のことですが、地球規模では大したことはありません。ティラノサウルスは6千5百万年よりも前に地球上をのし歩いていたわけで、まさに桁違いです。
でも恐竜と人類が同じ病気=痛風にかかっていたと言われると、はるかな時間を飛び越えて、親近感というか、そこから進化して人類があるのだなあと、しみじみ感慨深いものがあります。
痛風持ちの「スー」
山中寿氏の『痛風とつきあう法』(東京新聞出版局/1998年)には、1997年科学雑誌ネイチャーに発表されたというティラノサウルスの化石のことが書かれています。
米国のサウスダコタ州から一九九〇年に発掘された「スー」という愛称を持つ全長十五メートルもあるティラノサウルスの化石を調べていた研究者たちが、スーの関節に尿酸が沈着していたと思われる部分を発見したのです。[1]
「スー」ってなんだろう? とウィキペディアのティラノサウルスの項をみると、発見した方の名前なんですね。というかすごい有名なんですねスーさん。しかしその後に起こった法廷闘争とか…けっこう大変だったようです。紆余曲折を経て今は米国のフィールド自然史博物館に展示されているスーですが、最強の恐竜・ティラノサウルスが痛風で痛がっていたかと思うと少し滑稽です。
爬虫類は痛風にかかる
スーには右手の指の骨に尿酸塩沈着の跡があったそうですが、実際、爬虫類は痛風にかかるようです。「バーツ動物病院」さんの「ケヅメリクガメの痛風結節」という記事には、カメの足に出来た痛風結節、つまり尿酸塩結晶のコブを治療する様子が載っています。すごく大きいコブなので驚きです。バーツ動物病院さんによると、爬虫類の痛風はよくある疾患だということです。ティラノサウルスも爬虫類ですから、痛風にかかっていたとしても不思議ではありません。きっと高タンパク高カロリーの食生活だったのでしょう。肉食ですからね。
尿酸を分解する酵素「ウリカーゼ」を持たない生物だけが痛風にかかる
ヒトを含む霊長類、鳥類、陸生爬虫類、ダルメシアン犬などは尿酸を分解する「ウリカーゼ」という酵素を持っていません。ヒトなど高等霊長類は進化の過程でウリカーゼ遺伝子が突然変異して機能しなくなっています。よって尿酸を原因とする痛風にかかるのはこれらの生物だけです。
霊長類以外の哺乳類、両生類、魚類、甲殻類などはウリカーゼなど尿酸を分解できる酵素を持っているため、痛風にはなりません。ライオンは肉ばかり食べていますが、尿酸を分解できるため痛風にはならないのです。そもそも野生では過食なんてできないでしょうけど。
ミイラと痛風結節・腎臓結石
今から7,000年前のエジプトのミイラの腎臓から結石が出て、それに尿酸が含まれていた、ということを、これも本とかネットとかでちょくちょく見ます。
でもそれが、いつどこで誰が調査したのかは、私が見た中では書かれていなかったので、よくわかりません。
ネットで軽く検索すると、世界最古のミイラは8,000年前のものということですが、エジプトではなく南米のミイラのようです。
エジプトのミイラは約4,500年前から作られ始めたと見られていたのが、最近は6,500年前頃からと見直されているそうです。
…つまり、腎臓結石がでたという7,000年前のミイラは南米のものか、もしくは誤差の範囲でエジプトのものか、いずれかということでしょうか? なんだかちょっと眉唾っぽいですね…でももう少し調べてみます。
さらにミイラですが、こういうのもあります。
西田琇太郎氏の『やさしい痛風・高尿酸血症』(日本医事新報社/第2版 2001年)によりますと、
確実な痛風の存在はSmithとJonesの調査の結果明らかにされた。彼らはエジプトのヌビアの共同墓地から紀元前100年以上前に死亡したと推定される成人男性の足親指などの骨に大きな痛風結節を発見し,この結節に尿酸を含有することを科学的に証明した。[2]
ということです。Smithとはグラフトン・エリオット・スミス(1871-1937)、Jonesとはフレデリック・ウッド・ジョーンズ(1879-1954年)のようです。これは 『人類学のススメ』[3]様を参照させていただきました。
紀元前100年というとヒポクラテスの時代以降のことですが、これは確かに痛風があったという証拠になります。
長い時間をかけた進化の過程で、突然変異を起こしたウリカーゼ遺伝子…古代エジプト人がそのようなことを知る由もないでしょうが、恐竜の時代から古代を経て今日まで地球に生きた我々は、なんと痛風の痛みで繋がっていたのです。痛風はまさに地球から遺伝子レベルで決定された病気である、といえるのかもしれません。 …あ、どんな病気でもそうですね。
ここで一句。
(でも逃れることは、できる…はず)
【引用】
[1]『痛風とつきあう法』〈p56〉(山中寿 著/東京新聞出版局/1998年)
[2]『やさしい痛風・高尿酸血症』〈p109〉(西田琇太郎 著/日本医事新報社/第1版 1984年/第2版 2001年)
[3]『人類学のススメ』 世界の人類学者23.グラフトン・エリオット・スミス