痛風 〜 言葉の由来・語源

足0016

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西洋における語源

「gout」の意味

痛風は英語で「gout(ガウト)」と言うそうです。ぜんぜん知りませんでした…

加賀美年秀氏の『痛風のすべて ー歴史から食事療法までー』(メディカル トリビューン/1988年)によりますと、

痛風という病名は,体液学説に基づくラテン語の“gutta(グッタ)”,すなわち“滴”に由来し,弱い関節に悪い体液がしたたり落ちて起こる病気の意に解釈されています.

と、その語源が示されています。

英語の“gout(ガウト)”,フランス語の“goutte(ギュット)”,スペイン語の“gota(ゴタ)”

は同じ語源ですが、

ドイツ語の“Gicht(ギヒト)”だけはその語源を異にし,「魔法の呪文にかけられて起こる病気」の意

であるとして、下の2つの絵を例示されました。

音楽家と痛風悪魔の図

痛風モンスターに齧られるの図

ひとコママンガってところでしょうか。
痛風は猛烈に痛いのに、しばらくすれば消え去ってしまうあたり、キツネにつままれたというか、まるで悪魔の魔法にかかったように思われても「無理からぬこと」と、加賀美氏は述べておられます。[1]

確かに…気持ちはすごくわかります。

ヒポクラテスの時代から

痛風はとても古い病気です。

古代ギリシャの医師で「医学の父」といわれるヒポクラテス(BC460年頃〜377年頃)はすでに痛風についての観察を残していて、それを「Podagra(ポダグラ)」と記しました。これはギリシア語の「pous(足)」と「agra(つかまえる、襲う)」を合成した言葉ということです。「agra」は他に「わな」とか「関節炎」とも訳されるようです。[1][2][3][4]

東洋における語源

風が当たっても痛い。だから「痛風」…シンプルです。

少々短絡的で取って付けたような感じもありますが、わかりやすいしセンスいいですよね。あの激烈で絶望的な痛みの度合いもわかりますし、ちょっとしたユーモアも感じます。

でも本当は「風が当たっても痛い」ではなく、ちゃんとした意味があるようなのですが…

「痛風」中国での最初の文書

「痛風」の語句の起源は中国にあります。

中国最古の医学書『金匱要略(きんきようりゃく)』(2〜3世紀頃)の「中風歴節編」の項に、痛風とほぼ同じ症状が「白虎歴節風」として載っており、中国では少なくともこのころには痛風の症状が認識されていたようです。[1][5]

「痛風」が用いられた現存する最も古い書物は、中国の南北朝時代、陶弘景(とう こうけい/456〜536年)が編纂した『神農本草経』(しんのうほんぞうきょう/500年頃)です。[6][7]

痛風は西洋と違い、東洋では非常に稀な病気だったのですが、この当時は筋骨関節の痛みがある病気を、広く「痛風」と呼んでいたようです。
朱震亨(しゅ しんきょう/1281〜1358年)は『格致余論』(かくちよろん/1347年)の「痛風論」の中で、3名の「痛風患者」の病状に触れていますが、それらの症状は今日いう「痛風」とは違うもののようです。[6]

最初期の「痛風」と今現在の「痛風」は、別物として見ておかなければなりません。
ですから「痛風」の病名が成立した当時の由来が、今の「痛風」の症状にそぐわなくても、間違いではないわけです。

「痛風」は「風が当たっても痛い」ではない?

言葉の由来について、巖琢也氏の『痛風 発作を起こさないための尿酸コントロール』(新星出版社/1999年)にはこうあります。

「風が吹いても痛い」からとか、「風のようにやって来て、風のように去る」からとかいうまことしやかな説もありますが、これは、あとからこじつけた解釈のようです。[5]

そうなんですか!?
…でもなんとなく同感です。「風が吹いても痛い」って、単語の上っ面をなぞっただけのような気がしないでもありません。

さらに、

痛風の「風」は、「風疾」つまり中枢神経系の病気を意味するので、「痛みがおきる全身の病気」の意味であると考えるのが正しいとされています。[5]

とあります。

「痛風」の「痛」はそれこそ「イタイ」という意味でいいのでしょうが、「風」が何を意味するかがポイントのようです。

また、西田琇太郎氏の『やさしい痛風・高尿酸血症 改訂2版』(日本医事新報社/2001年)には、

わが国では風というのは系統的な疾患という意味である。[4]

とあります。

辞典でも「風」を引いてみました。病気に関するところはこうです。

ふう:やまい。風(かぜ)の毒による病気。風病。[8]

さらに類義語の「風病」を引きます。

ふうびょう:古く、風の毒に冒されておこるとされた病気。
頭痛、四肢の疼痛あるいは異常感覚、発音障害、四肢の運動障害などの症状を伴うものの総称。[8]

どうやら「風」は「中枢神経系」で「系統的」な疾患の総称…ということのようですが…

さらに『中国医学辞典 基礎編』を引くと、

病因である六淫の一種。風気ともよぶ。陽邪に属し、外感病の先導役を務め、他の病邪と結合して疾病を引き起こす。
悪風・悪寒や発熱を伴い、遊走生、多変性などの特徴を持つ。[9]

とありました。

…よくわからなくなってきましたが、「他の病と結合する」は「系統的」、「遊走性、多変性を持つ」は「全身の病気」ととらえることができるような気がします。
ただ、「痛風」の言葉ができた時代と、今の時代とでは言葉の解釈のしかたも違っていたでしょうから、安易なことは言えません。


現代の「風」の意味から「痛風」の言葉の解釈はなんとなくできますが、語源とか由来とか、名付けた理由とまでは言えない気がします。あくまで解釈止まり。
本来は原典の『神農本草経』を読んで「痛風」の字を当てた理由はこうだよ!という陶隠居先生のコメントを探せば解決なのでしょうが…解説本もあるようですし。

でも、そんなこと書いてないだろうなあ…

「痛風」日本での最初の文書

再び巖琢也氏の『痛風 発作を起こさないための尿酸コントロール』には、日本で初めて医学書に「痛風」を用いたのは、禅僧有隣の『福田方(ふくでんぽう)』(1363年頃)が最初である、という論文が最近出ている[5]、とあります。
これが痛風という病名の初輸入とのことです。

「痛風」は輸入された言葉なので、もし『福田方』に「痛風」の言葉の由来や解釈が述べられていたとしても、結局それは後付け解釈、ということになってしまうでしょう。輸入元の出典が明記されていれば別ですが。
いずれ『神農本草経』に由来が載っていなければ、名付けた理由はわからないことになります。
しかし『神農本草経』も、もとは『神農本草』と『名医別録』(共に現存しない)という書をまとめたものなので、『神農本草経』に由来を求めてはいけないような気もしますので…


堂々巡りですが、以上ざっくり、ごちゃごちゃと並べてみました。

で、この項の結論としては前出「風は系統的疾患の意味である」と述べられた西田琇太郎氏の『やさしい痛風・高尿酸血症』から、この一文を当てたいと思います。

日本語で痛風といわれる理由や,いわれはじめた時期ははっきりしない。[4]

これにつきますネ!正直もうわかりません。だいたい痛風の歴史長すぎです…

ついでに提案です。

痛風は「風が当たっても痛い」でいいんじゃないですか?
※(きっと後付けだけど)

結局これか…こんなんでスミマセン。

…さて、その後日本で痛風が確認されたのは明治31年(1898年)になってからのこと。患者数が目立って増えてきたのはようやく1960年代を迎えてからのことでした…

さらに一句。

そんなこと どうでもいいから 一杯飲もう

(もうヤケです)

偉人たちの痛風
偉人たちの痛風
痛風がぜいたく病と言われるわけ 痛風をいちばん最初に医学的に観察して記録したのは「医学の父」ヒポクラテス(BC460〜377年頃)です...

▲次リンクの画像は キリヌケ成層圏 加藤タカシ様よりお借りしています!▲

[1]『痛風のすべて ー歴史から食事療法までー』 Ⅱ.痛風の語源,歴史〈p3-5〉 Ⅲ.病名,“痛風”の由来〈P8-9〉(加賀美年秀 著/メディカル トリビューン/1988年)
[2]『患者のための最新医学 痛風・高尿酸血症』 痛風の歴史〈p54〉(日高雄二 監修/高橋書店/2014年)
[3]『ヒポクラテス全集第二巻』〈p920〉(大槻真一郎 編集・翻訳/エンタプライズ/1987年)
[4]『やさしい痛風・高尿酸血症』 第5章-4-1.古代の痛風〈p108-110〉(西田琇太郎 著/日本医事新報社/第1版 1984年/第2版 2001年)
[5]『痛風 発作を起こさないための尿酸コントロール』〈p19-20〉(巖琢也 著/新星出版社/1999年)
[6]『痛風病名史考』(鈴木修二 著/リウマチ第9巻 第2号/日本リウマチ学会/1969年)
[7]『医科学大事典34』 陶弘景〈p115-116〉(講談社/1983年),『医科学大事典25』 神農本草経〈p192-194〉(講談社/1982年)
[8]『日本国語大辞典 第二版 第十一巻』 風〈p681〉 風病〈p701〉(小学館/2001年)
[9]『中国医学辞典 基礎編』 風〈p614-615〉(陳有昭 編著/たにぐち書店/2008年)

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